1998年12月アーカイブ

サンタの帽子
連載41 ($Revision: 1.1 $)

◆ ◇ ◇

「あ、サンタだ」
「ほんと、サンタだ。プレゼントちょうだい」
「プレゼントー」
「なんだよ、袋持ってないじゃん」
「つまんないの」
 両袖を子供たちにつかまれ、髭もひっぱられて取れそうです。すいません、すいません、と謝ります。しばらくしてから解放されましたが、服装もメイクも乱れてしまっていました。ショーウィンドウに自分を写して直そうとしますが、眼鏡をかけていないのできちんと元に戻ったのかが分かりません。
 それでも気を取りなおして、再度プラカードを持ち直します。そんなときに、また別の子供たちの攻勢に合うのでした。
 この時節になるといつも思い出すことです。当時、学生だったタタさんは一度だけサンタクロースの恰好をするアルバイトについたことがあります。その内容はと云えば、ただお店のプラカードを持って立っている、というだけのものだったのですが。
 そのことをよく覚えていることには幾つか訳があります。子供たちに囲まれて大変だった、というのもそのひとつなのですけど。
 タタさんのサンタクロースというのは、やたら背が高くて目立ったのですが、その実、服のサイズが合っていなくて、袖も足も短かくて滑稽に見えたのでした。きちんと合っていたのは帽子くらい。結局、その年の12月中はそのバイトをしていましたから、最後の方ではその衣裳は相当傷んでしまっていました。元々くたびれていたのですが、無理に袖を通したのでなおさらだったみたいです。
 クリスマスが終って、彼がいくばくかのお金を貰って部屋に帰ったときに気付きました。
 衣裳の帽子だけが、持っていたスポーツバッグの中に紛れて入っていた様です。次の日にお店に電話をかけたのですが、あの衣裳自体をもう捨ててしまったのでもう要らないとのことでした。
 それで、タタさんの元にはその行き場の無くなってしまった、帽子だけが残ったのです。

 三奈月さんは「サンタクロースを信じている」という期間が全くありませんでした。
 というのは、まだサンタの存在自体を理解する前に、それを目撃してしまったからです。今だにその場面だけ思い出せるのですが、お父さんがサンタの帽子だけをかぶってプレゼントを抱え、彼女の枕元にやってきます。そして、満足そうに彼女の顔を覗きこむと、その包みを置いて部屋を出て行きました。
 三奈月さんはその全てを見ていたという記憶があるのです。しかし、どうもそれは記憶というより、後で形成され、(作られた)記憶という感じがあります。物心がついたころから、そのことで散々騒いでいたと聞かされましたから。
 だから、三奈月さんの当時のサンタクロース体験はそこでストップしてしまっています。
 もちろん、今では、お父さんが彼女の(たった一人のサンタクロース)だった、と思い起すことができるのです。
「サンタさんて、お父さんだよ」
 という言葉はそのまま、真実だったわけです。
 ですから三奈月さん、この季節に思い出すのは、寝室に入って来る、「赤い帽子をかぶったお父さん」なのです。

 今年のクリスマス・イブは、高原さんと美由さんなど、女性陣の主催でパーティーが開かれることとなりました。イブに集まりがあるということは初めてです。
 イブと云えば大切な人とふたりだけで・・という人たちは放っておいて、みんなで盛り上がってしまおう、という主旨です。会社の女性が中心になったということで、たくさんの人が集いました。
 鶴川さんファミリーをはじめ、あちこちにお子さんたちの姿もあります。
 当然ながら、いつものメンバーが揃っています。
「タタさんはまだケリがつかないの?」誠司さんが訊きます。
「さっき、電話したのだけど、もうちょっとしたら、出るって云ってたよ」と高原さん。
「ここに来て、まだ忙しいんですかぁ」これはマキさん。
 高原さんは、ワイングラスを片手に答えます。「だからさ、年末っていうのは『なんとか年内に終らせてくれ』ていうお客さんが多いのさ。けっきょく、その年末にっていうことに意味はないんだけど」
 そういうものなんだ、とマキさんはなんとなく納得します。
「ほら、この Home *1 ってまるで、あの MagicCap を彷彿とさせるじゃない。これに、LaunchMenu *2 を組み合わせると、もー完璧」久しぶりに会った同期の男の子たちに PalmIII を見せてそう説明している有川くんでした。
「成長のないやつぅ」とは誰の言葉か・・
「タタさん来ませんね」
「うん」三奈月さんは元気がありません。
「元気出してくださいよぉ。もうこちらに向っているらしいですから」そう云って、マキさん彼女のグラスに注ぎます。
「うん・・」

「あ、サンタだ」
 入り口にみなさんの視線があつまります。
 やけに背の高いサンタクロースが、そこにはいました。
「では、締めのお言葉をサンタさんにお願いします」高原さんが、そのサンタクロースにマイクを向けます。
『世界のみなさんに幸福を』
 そうスピーカーから流れます。
「空々しい言葉だけど」
「うん、タタさんが云うと真実味があるよな」
 三奈月さんはすぐに分かりました。その、窮屈そうな服に妙に身を縮めている様と、そのよく通った声で。どこから調達したのか、タタさんはその真っ赤な衣裳を身に纏っていました。
 時間が過ぎていましたので、タタさんが来たというのに、その場はお開きになってしまいました。

「どこで着替えたんですか?て云うより、どこから持ってきたの?」
「すぐそこで見付けたんです。サンドウィッチマンのサンタさんを、それで、ちょっと交渉したんです」
「よくやるよぉ、タタさん」
「もう少し、芝居っ気があればねぇ」
「しかしあの『世界のみなさんに』ってのもなんだねぇ」
「でも、タタさんはマジで云っているっぽいからなぁ」
 散会して、お店を出ました。そこでしばらく、たむろしていた人たちもそれぞれに散っていきます。
「タタさん、それ返さなくっていいんですか?」ふたりになった三奈月さんが、タタさんに云います。
「ああ、これは」いいんです、私のものですから。タタさん、自分がまだかぶっている赤い帽子を差して云います。
「どうしてそんなの持っているんです?」当然の疑問を投げます。タタさんがそれに答えようとしたときに・・
「タタさん来たばっかりなんだから、つき合ってくださいよ」遠くの方で声がします。
「はあい」それに応えます。
「三奈月さんはどうします?」
「いえ、私は明日早いので」仕方が無く、断ってしまいます。明日の朝は客先に直行なのでした。
 三奈月さんは、行ってしまいそうに見えるタタさんを見、慌ててバックに手を入れます。
「ほらぁ、タタさん行きますよぉ」いつの間にか、有川くんがそばにいて彼の腕をつかんでいました。ずるずるとひきずられていきます。
「じゃあ、三奈月さん、また明日」そう云うとタタさん、かぶっていたサンタの帽子を取って三奈月さんに渡しました。
「え?これ」
「プレゼントです」
 人ごみにタタさんの姿が消えていってしまいました。
 渡しそびれちゃったな、三奈月さんは心の中で呟きました。用意していた彼へのクリスマスプレゼントはいつ手を離れるのでしょうか。
 翌朝の打合せを恨みながら、その帽子を胸に抱えて駅へと向って歩き始めました。
 しばらく歩いてから、気がつきました。タタさんからもらった帽子の中に何か入っているみたいです。立ち止まって、それを探ってみます。
 帽子の中から、赤い包装紙と、緑色のリボンで包まれた箱がころりと出てきました。三奈月さんは思わずにっこりとしてしまいます。

◇ ◇ ◆


*1: 福本さんが作られた、DeskTop 環境ツール。柔軟なカスタマイズによって、様々な環境を構築することができる。
*2: 階層型メニューローンチャ。まさにメニュー型の起動ツール、もちろん DA も起動ができる。Endo さん作成。

三奈月さんの心配ごと - クラッカー 3 -
連載40(Ver1.0)

◆ ◇ ◇

 すでに、数週間前のことです。

 彼の元に数通のメールが来ました。
 送り主は全て、同じアドレスからみたいです。題名も同じで、ナンバリングしてあります。内容は見当がつきます。しつこく、何度もメールしてきたのだろうと、そのまま、ゴミ箱に入れようとしたときに気付きました。彼の持っているアカウントのそれぞれに対して送信されていることに・・
 つまり、その相手は彼の登録している、プロパイダの全てを知ってしまっている様なのです。しかも、そのメールアドレスまでもです。彼の顔から血の気が引いていきます。
 いっぱしの「ハッカー」のつもりで、あちらこちらの企業サーバに侵入を試みている彼です。すでに幾つかのマシンに対してアタックを成功させています。その結果、警告のメールを貰ったこともありますが、それだけで終っています。それはこちらからの(ちゃかした)メールの reply で戻ってきただけでしたし。
 消去しようとしていたそれらのメールを、慌てて開いてみました。すると、ついこの前に侵入を果たしたサイトの管理者かららしいことがわかりました。しかも内容は、マシンに入って彼が行なったオペレーションの全てが記録されていたのです。。
 そして、その膨大なデータは、彼宛てのメールアドレスそれぞれに分割されて送られていたのでした。最後のメールの終りにだけ、少しだけ警告が書かれています。実際のデータを見せられた後だけに、その短い文章がより恐ろしいものとして写ります。
 彼はその場で、サイトの IPアドレスと、ID、パスワードを消してしまいました。
 数日を経ずして、郵送で同様のハガキが送られるに至って、これらの行為からは足を洗おうと決めた彼でした。

「おつかれさまです、ちょっとよろしいですか?」
「ええと、鶴川さんのところの?」
「田中です、あちらで話しましょう」
「なんですか」
「Web のサービスマシンのことです。分かっているかと思いますけど」
「・・・」
「あれはミスなのですか?それとも、意図的に放っておいたのですか?」
「・・ミスと思ってくださってけっこうですよ」
「そうでしょうか、私の考えは違うのですけど」
「ミスです」
「しかし、それならば、周りが騒ぎだした時点で、どうしてその(跡)を消してしまわなかったのでしょうか。もし、あなたがそれをした人であれば、証拠を残すようなことは避けられたはずです」
「買いかぶりですね、あれば単純な間違いですよ。云い出せないわけは分かるでしょう?」
「分かります」
「ささやかな反抗と考えてもらってもいいですよ。好きに判断してください」
「そうですか」
「でも、情報を流したのも私だとしたら、どうしますか」
「・・それは無いはずです」
「云い切れますか?」
「私からのお願いはひとつだけです」
「なんですか」
「この件については黙っていてもらいたいのです」

 発生から一週間が経とうとしています。タタさんはこの数日、オフィスにはあまりいません。
 三奈月さんは彼のいないデスクを見ます。事件のことで走り回っているらしいのは確かなのですが。彼女たちにはその後の動向は聞かされていません。
 彼のために残してあるコーヒーは容器の中で冷めきってしまっているでしょう。
 有川くんと高原さんは、出かけているみたいです。彼らの机も静かです。マキさんがキーボードに向って軽快にタイプしている音だけ聞こえてきます。鶴川さんは、なにかの書類と睨めっこをしています。
 三奈月さん、時計を見ます。タタさんとは今朝一度、顔を合わせただけです。今は午後の5時になろうというところです。
 そのとき、彼が戻ってきました。そして、鶴川さんと少し話していましたが、すぐに席に戻ってきて「今日は帰ります」と、彼女とマキさんに宣言すると、コートを手にオフィスを出て行ってしまいました。
 すこしの間、逡巡していた三奈月さんですが、「私も帰ります」と云い残すと、まだ明るい外へと駆け出しました。会社を出ますが、タタさんは見当りません。辺りを見回して、歩き始めます。
 しばらくキョロキョロとしていました。そして、川辺の小道を歩いて行く彼の後ろ姿を見つけます。走って追います。一見、のんびり歩いているタタさんですが、なかなか近付くことができないのです。
「タタさーん」ついに声を上げました。驚いて振り向いた様です。彼の足が止まりました。
「どうしたのですか?」彼女が追いついたところで、そう訊かれます。三奈月さんは肩でしばらく呼吸をしてから、一緒に歩き始めます。
「心配して、来てくれたのですか?」
「・・私なんかが心配しても、しょうがないのは分かっているんですけど」
 銀杏の並木から、半分以上舞ってしまっているその落葉を踏みしめながら、並んで進んでいきます。
「そんなことないです、ありがとうございます」そう云って笑う彼ですが、どことなく疲れて見えるのです。つい、三奈月さん胸が締めつけられるような感覚にとらわれてしまいます。
「終りました、全部」
「そう・・ですか?」元気のない彼に、三奈月さんは明るい表情をすると、その手に指を絡めました。ぎこちなく彼が握り返してきます。
 駅までには少しだけ遠回りの、この小道を歩いていきます。

◇ ◇ ◆

Break Down
連載39(Ver1.0)

◆ ◇ ◇

「有川さん、お休みだそうです」マキさんが受話機を置きながら云いました。
「あら、風邪?こじらせちゃったのかな」高原さんが答えます。
「そうみたいです。なにかあったら、携帯に電話してください、って」
「携帯?電話の場所までたどりつけない程、ひどいの?」
 前回の休暇が終ったころから、有川くんは体調を崩したらしいです。それから数日が過ぎましたが、調子は一向に良くはならず、結局、休むはめになってしまいました。
「休日中に病気になるなんて、いかんなぁ・・」鶴川さんが呟きます。

 そのころ、有川くんはベッドの上で布団をかぶったままで手を伸ばし、自分のバッグを引き寄せると中から PalmIII の一式を取り出しました。
 とりあえず、モデムと PHS をセットし会社のネットワークへ接続すると、POPJ *1 でメールを落とします。それが終るとすぐに接続を切りました。時間を置いてしまっていたので、100通近いメールが溜まっていた様です。Subject で判断して、急を要するであろうものを読み、それ以外はあと回しにすることにします。
 仰向けになったまま、それを見ていましたが、幾つかのものに返事を書くために、ごろり、と今度は俯せになり、最近、手に入れたばかりの GoType! *2 へと PalmIII を差し込みます。そうして、キーをタイプし始めました。打っている間にもセキがこみあげてきますから、Palm に唾がかかります。それをいちいち拭きながら、なかなか回らない頭を酷使して文章を作っていきます。
 布団を肩までかぶった状態で、液晶を見つめている彼は、ヤドカリか、かたつむりみたいです。しかも、ずいぶんくたびれた様子の・・
 メールを送信したのを確認して、また、仰向けになりました。
「はら減ったなぁ」呟きます。食欲が出てきたのなら、良くなりつつあるのでしょう。しかし、起き上ってなにか用意しようという気にはなれないらしく、そのまま目を閉じてしまいます。

 タタさん宛てに有川くんからメールが届いていました。内容は、現在進行中の作業の進捗と、数日は休むかもしれない、という謝りの意志が書かれてあります。
 最後に「P.S. 食欲は出てきたけど、摂取できる手段がない・・ (T_T)」。大丈夫でしょうか?寮の部屋で寝ている彼を想像してみますが、あまり良いイメージは湧きませんでした。
 無理をしないように、というメールを返送します。
 プロジェクトの彼が担当している部分をチェックします。それ程急ぎのことはないですから、問題はないでしょう。あまりしたくない想像ですが、多少、彼の休みが延びたとしても。
「タタさん、お食事に行きませんか」という三奈月さんの声に、彼は立ち上がりました。
 エレベータを降りた所で、美由さんと出会いました。
「有川さん、お休みですけど、聞いていますか?」マキさんが彼女に訊きます。
「うん、あの・・今朝、電話で話したから」どうやら、彼の体調が悪いことは知っているみたいです。そう云うと、手を振ってエレベータへと乗り込んで、行ってしまいました。
「電話でねぇ・・」食堂へ向かう途中、タタさんが独り言の様に云います。マキさんと三奈月さんはそれを不思議な印象で聞きました。
 テーブルに座って、箸を取ります。
「ちゃんと食べているのかなぁ、有川さん」
「昨日からあんまり食欲が湧かないって云ってましたよ」マキさんが電話の会話のことを云います。
「有川さんだからなぁ、心配ですね」三奈月さんが、同意を求める様に他の2人に云います。思わず頷く、マキさんです。
「大丈夫ですよ」タタさんは云います。
「彼だってもう、いいオトナなんですから」
「そうでしょうか?」
 彼にしては少し、薄情な言葉です。

 夕方になって、すっかり暗くなってしまうすこし前、タタさんは席を立つとオフィスを後にしました。こんな時間に出掛けるのは珍しいことです。

 美由さん、定時になるのを確認して、すぐに作業を終らせて帰る仕度を始めました。最後にもう一度だけメールをチェックすると、マシンをシャットダウンします。そして、周りの人に挨拶をすると、廊下へと出ました。
 腕時計で再度時間を見ます。すいぶん、急いでいるみたいです。
 会社を出たところで、
「おつかれさまです」タタさんに会いました。美由さんはちょっとびっくりします。
「はい、これ」と紙袋を差出されました。
「なんですか?」「お見舞いです」
 何のですか?とは訊きませんでした。
「食欲が戻ってきたって云ってました、彼の好きなものですよ」
「・・ありがとうございます」美由さんはにっこりと笑います。そうして、ぺこりと頭を下げると、駅へと向います。
 それをタタさんはすこしだけ見送ると、また、社の中へと戻って行きました。

 近くで早めに買物を済ませると、彼女の部屋のドアの前に立ちます。バッグからやっとキーを取り出すと、鍵穴に差し込みました。
「ただいま、具合はどうなの?」中に向って、叫ぶ様に云います。
 意外と元気な彼の声が返ってきました。

◇ ◇ ◆


*1: 定番となった、メールクライアント。最近また、新しいバージョンがリリースされました。村上 正幸さん作成。
*2: ドッキングステーションで、Palm/Pilot に対してキーボード入力を可能にします。LandWare 販売。

調査報告書
連載38(Ver1.0)

◆ ◇ ◇

【9:15 AM】
 いつもの通り、元気に三奈月氏出社。
 私ともう一人いた岡崎氏に挨拶すると、そのまま、奥のロッカールームへ、すぐにそこから出てきて自分のデスクへ。財布と、PalmPilotを持ってきたのが見える。それらを机の上に置くと、マシンを立ち上げる。軽快な音と共に、椅子に座る。
 実際のところ、今、視界には入っていないが、彼女は必ずそのお財布をディスプレイの手前に置いている。例の田中氏から貰ったという「ブツ」が、常に目に入る様にしているフシがあるのだが・・
 数分を置いてから、席を立つ。日課になっている、コーヒーメーカーのセットに行ったのであろう。岡崎氏が来た頃には、しばらく彼女に任せていたのだが、結局、また、彼女の担当となっている。好きでやっているみたいだ。

【9:50 AM】
 田中氏出社。
 彼の場合、朝が弱いのか、いつもに輪をかけて「ぬぼー」としている。この時間帯はまだ、いつもの瓢々とした雰囲気は醸し出されていない。低血圧なのか?
 ディスプレイの電源を入れ、その前に座るがしばらく、ぼぅーとしている。目を開けたまま寝てる??
 三奈月氏がコーヒーを持って、傍らに立っているのに少しの間、気がつかなかったらしい。慌ててカップを差し出す。そこで、いつもの様に彼女と雑談をして、やっと彼の頭も目が覚めてきたらしい。

【10:30 AM】
 有川氏出社。関係ないので省略。

【12:05 PM】
 安堂氏がふらふらと、我が部署に現われる。
 彼の誘いで、社食へとみんなで移動。そこでの会話、

マキ:「もうすぐ、クリスマスですねぇ」
有川:「今年は、ホワイトクリスマスが期待できるんじゃないの。昨日、雪だったし」
田中:「あれには参りましたね。まだ、12月のはじめなのに」
安堂:「もう、寒いだけだったよ」
三奈月:「クリスマスかぁ、一年経つの早いですよね」
高原:「そう思えるのは、もう『年』だよ」
三奈月:「ええー」
安堂:「有川、なんか考えてるか」
有川:「考えるって、なにを?」
安堂:「あほう、このクリスマスは特別なものだろう?お前も、彼女も」
有川:「はあ?そういうものなの・・?」
マキ:「タタさんはどうなんですか?」
田中:「クリスマスですか・・年末は毎年忙しいですからね。お客さんは年内になんとかしてくれって話が多いですからね。ここ数年、それらしいことはしていないですね」
高原:「又八郎さんと、ケーキ、つついてる?」
田中:「まあ、そんなもんです」
マキ:「今年はどうなんですかぁ?」

 時期的にクリスマスの話題となった。三奈月ちゃんは、どうも黙り気味。タタさんもあまり話題を拡げる気はないらしい。有川くんは安堂くんの言葉で考え込んでしまったみたい。

安堂:「おれは、どの道、あちらでクリスマスだからなぁ」
高原:「そっか、いつ戻るの?」
安堂:「今週末には発ちますよ」
高原:「ひとり淋しく、クリスマスって感じ」
安堂:「いえ、どこかのホームパティーに紛れ込めます」
マキ:「いいなぁー」
安堂:「もしかして、マキは、独り淋しくクリスマス?」
マキ:「ふーんだ」

【2:00 PM】
 有川くんがついに手に入れたという、GoType! *1 を披露。彼のデスクの周りを囲んでみんなでレビュー。(これは、タタさんも持っている Palm/Pilot でキーボード入力を可能にするというもの)
 見た目は確かに恰好良いが、キーのタイプに少し問題がある、と有川くんが認めている。「あいかわらず、散財していますね」というタタさんの言うことに、みんなで同意する。
 しかし、ノートPC を所持していない三奈月ちゃんや、マキちゃんは魅かれているみたい。しきりに「いいな」を繰り返す。
「まあ、独りもんの内に欲しものは買っとけや」という鶴川さんの言葉でその場はお開き。

【4:45 PM】
 タタさんが席を立ち、コートを手にする。外に出ていく模様。買い出しか?
 それに誘われる様に、三奈月ちゃんもオフィスの外へ。尾行するワケにも行かず、私はふたりが戻るのを待つ。

【5:25 PM】
 ふたりが一緒だったのかは定かではないが、ほぼ同時期に戻ってくる。なにも無かったかの様に業務に戻る。でも、私はふたりの視線が時々からみ合っているのを見逃してはいない。(フフフ)

【18:40 PM】
 三奈月氏、帰り仕度を始める。ロッカールームから、バッグを持ってきて、コートを羽織る。「おさきに・・」とオフィスを後にした。
 数分して、田中氏もコートを手に外へと出て行ってしまった。
 果たして、それはふたりして示し合わせたものなのか?どうか、知る術はない。しかし!アヤしい、これは極めて怪しい・・

 以上、謹しんで、報告いたします。

 花子さんは、ディスプレイ上をじっとなぞっていました。読み終ると、思わず、笑いが込み上げてきます。彼女の会社のマシンに入って、直接 mail を読んでいたのですが。
「報告しますって、云われてもねぇ。一美ちゃん、暇なのかな?」
 彼女の膝の上に乗って、同じくディスプレイを眺めていた又八郎さんは、「にゃあ、」とそれに答えました。

◇ ◇ ◆


*1: ドッキングステーションで、Palm/Pilot に対してキーボード入力を可能にします。LandWare 販売。

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